なぜこの事例を書くのか
「AIで何かやれ」「AI駆動開発を導入したい」——ここ1〜2年、そうした号令が経営層やDX推進部門から降りてくる企業が急増しています。
弊社カシカコンサルティングにも、この波に乗る形で複数のPoC(概念実証)コンペのお声がけをいただいています。今回はその中から、一見理にかなっているように見えて、実は複数の課題が絡み合っていた案件についてお話しします。守秘義務の関係で詳細は一般化していますが、同種のRFPに直面している企業の意思決定者にとって、参考になる内容だと考えています。
受けたRFPの概要
ある企業から、次のようなRFPを受けました。
既存Webアプリをネイティブ化する。AIを活用してスピーディーに開発できるパートナー企業を選定するためのコンペ形式のPoCを実施。実装力だけでなく、PoC後の本開発でも継続して運用できるAI駆動開発プロセスを提案していただきたい。
従来型のウォーターフォールでは開発期間が長期化する傾向があり、開発スピード上げたいという課題感がある。今後はAIを積極活用し、AIネイティブな組織でプロダクト開発を進めていく。
開発期間は開発開始から1ヶ月程度。費用は1社あたり400万円。コンペで勝った企業は、本開発へ進む。
一読すると、非常によく練られたRFPに見えます。目的も明確で、予算感も現実的、選定プロセスも整備されている。実際、同種のRFPを何社も並行して評価している企業は少なくありません。
しかし、このRFPを分解していくと、AIとは直接関係のない構造的な課題が複数隠れていることが見えてきます。
一見合理的に見えるRFPに潜む、3つの問題
1. 「ネイティブ化」の目的が言語化されていない
まず、「既存Webアプリをネイティブアプリ化する」という要件そのものは妥当だとしても、なぜネイティブ化するのかという目的がRFP上で言語化されていません。
パフォーマンス改善なのか、プッシュ通知などOSレベルの機能が必要なのか、あるいはストア経由での新規獲得チャネルを狙っているのか——目的によって、選ぶべき技術スタックも、優先すべき機能も、評価すべき指標もまったく変わります。そして、これはAI活用の巧拙とは無関係な、プロダクト戦略の設計課題です。
2. 開発が長期化している「本当の原因」が特定されていない
背景に書かれている「従来型のウォーターフォール開発ではスケジュールが長期化している」という課題感も、丁寧にヒアリングすると解像度が粗いことが多くあります。
AIを開発プロセスに組み込んだところで、承認フローや意思決定構造そのものがボトルネックになっている場合、開発速度は本質的には改善しません。要件定義のたびに複数部門の合議が必要だったり、意思決定者が現場から距離のある会議体にしか存在しなかったりすれば、コーディングがどれだけ速くなっても、リリースまでのリードタイムは短縮されないのです。
つまり「ウォーターフォールが遅い」のではなく、「組織の意思決定構造が遅い」という可能性を検証せずに、開発手法だけを変えようとしているケースが少なくありません。
3. 「AIネイティブな組織」の定義が社内で共有されていない
そして最も本質的なのが、「AIネイティブな組織・サービス開発を進めていく」という一文です。この言葉自体は魅力的ですが、実際には以下のように、少なくとも2つの異なる意味で使われがちです。
- arrow_right オペレーションのAI自動化として捉えているのか(業務プロセスにAIツールを組み込み、生産性を上げる話)
- arrow_right 組織のビジョン・カルチャーとして捉えているのか(意思決定や評価制度、人材育成方針までを含めて「AI駆動」を定着させる話)
この2つは似て非なるものです。前者は比較的短期間でツール導入・運用設計によって成果が出ますが、後者は評価制度や採用方針、時には組織図そのものにまで踏み込む中長期のテーマになります。
RFPを発注した部門内でこの認識がすり合っていないまま外部にコンペを投げると、選定基準も評価軸もぶれてしまい、結果的に「速いだけのベンダー」を選んでしまうリスクがあります。
弊社が提案したこと
この構造を踏まえ、弊社からは単なるアプリ実装の提案ではなく、以下を含めた提案を行いました。
- 1 「AI組織」とは何かの共通認識の確立 — オペレーション自動化とカルチャー変革、どちらを、どの順番で、どこまで狙うのかを言語化するワークショップ設計
- 2 必要な組織変革のアイデア — 意思決定プロセスの見直しを含め、AI活用の効果を実際にリードタイム短縮へ繋げるための構造的な提案
- 3 ツール選定と運用設計 — 目的が明確になった上での、AI駆動開発ツール・プロセスの選定
RFPに書かれた「アプリを1ヶ月で作れるか」という表面的な問いに答えるだけでは、この企業が本当に抱えている課題は解決しません。むしろ、実装力を競うコンペの前段階で、発注側の組織課題を可視化し、共通言語を作ることこそが、継続的な成果に繋がるという立場で提案を行いました。
同じ課題に心当たりがあれば。まずは30分の相談から。
30分のオンライン相談(無料)arrow_forwardこの事例から言えること
「AIで業務効率化をしろ」「AI駆動開発を導入せよ」という号令は、今やどの企業でも珍しくありません。しかし、その号令の背景には、たいていAIとは関係のない組織課題が隠れています。
- arrow_right 目的が言語化されていないプロダクト戦略
- arrow_right ボトルネックの所在を誤認した業務プロセス
- arrow_right 定義がすり合っていない「AI組織」というスローガン
これらを整理せずに技術選定・ベンダー選定だけを進めても、期待した成果は出ません。逆に言えば、RFPの行間を読み、発注企業自身も気づいていない課題を言語化して提示できるかどうかが、AI活用の伴走パートナーとして選ばれるかどうかの分かれ目になります。
カシカコンサルティングでは、AI活用や業務システムの構築だけでなく、その前提となる組織課題の整理・要件の言語化からご支援しています。「AIで何かしたいが、何から手をつければいいか分からない」という段階でも構いません。ご興味のある方は、ぜひ一度お問い合わせください。